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株式会社eNFC

カラダがアンテナ?触っただけでドアが開く人体通信って何?

株式会社eNFC

話し手︓和城賢典氏(株式会社eNFC代表取締役)
聞き手︓松田一敬(合同会社SARR代表執行社員)
インタビュー日︓2016.12.26

──今日はありがとうございます。このインタビューは当社でサポートしているスタートアップの経営者をお招きして、どのような事業展開をされているのかお伺いする企画です。まず、eNFCとはどのような会社でしょうか?   

端的に言えば人の体を使って近距離で無線通信を行う電界型NFC (Electric Near Field Communication:ENFC)技術を開発しています。

 

──近距離の無線通信では、例えばソニーが開発したFeliCaの技術を利用してSuicaや楽天Edyなどの非接触ICカードがすでに普及しています。最近ではスマートフォンでも同様の機能が搭載されています。eNFCの技術がこれらの技術と違う点は何ですか?

既存の非接触無線通信では、ICカードやスマートフォンなどと、それを読取る機器が必要になります。従って、この無線通信を利用するために、財布からICカードを取り出しカードをかざすという行動が必要になります。我々、eNFCの技術を用いれば、人間が手で読取機を触った時に通信する、という直感的な操作を行うことができます。

例えば、世の中の人は、ICカードでものを購入する際には認証のための操作をしたいわけではありません。製品を購入するためにおこなっている行為で本来は必要ありません。そこで、当社の技術で、例えば手で触れるだけで支払いができるようなことを実現したいと考えています。他にも、ドアノブを触るだけで本人の認証ができて入退室が可能であったり、IDとパスワードの入力なしでPCに触れるだけで自分のパソコンを起動できるなど広い応用範囲が考えられます。

 

──eNFCは体を通じて通信を行っていますが、将来的には体を通じて機器の充電を行うなど、これまでと異なった電子機器の利用ができるのではないでしょうか?

そういう可能性はあると思っています。実はeNFCの技術コンセプトそのものは新しいものではありません。当社の技術の優位性はアンテナを工夫することによって従来から送電効率を100倍以上に引き上げた点にあります。技術開発が進めば、データの送受信だけではなく、充電もできるようになる可能性があります。

 

──話を変えて、和城さんの起業の経緯を伺いたいと思います。過去には大手メーカーでエンジニアとして勤務されていましたが、eNFCという会社を立ち上げた経緯について伺いたいと思います。まずは、eNFCの技術的なアイデアはどこからきたのでしょうか。

もともとは、電機メーカーで無線、高周波回路の開発を行っていました。以前からアンテナで面白いことをやろうと考えていました。以前はコイルを用いて磁界をつくることを行っていましたが、電界を用いて電磁誘導をできないかということで、開発を進め、電界に人体を用いると面白いのではないか、と思ったのが技術的なバックグラウンドです。

 

──非常におもしろい技術だと思います。これを前職の会社ではなく自分の会社を立ち上げて開発を進めていくことになったのは、なぜなのでしょうか。

小さい組織で実用化したほうが、この技術が世に出ると考えたからです。技術を実用化していくには、技術だけではなく、多くのリソースが必要になります。大きな会社はリソースがあるのですが、社内の既存事業との関係性も踏まえてその事業を進めるか、技術開発を進めるのかが決まります。前職の場合は、既存事業で非接触通信を行っており、その事業と競合する可能性のある新しいeNFCの技術開発を進めることが難しい状況にあったので、eNFCという会社を立ち上げました。

 

──新しく会社をつくり、NEDO-TCP(NEDO-Technology Commercialization Program)やSEMICONにも参加して、国内だけではなくテキサス州オースティン、シリコンバレー、サンフランシスコなどでもプレゼンテーションを行う機会がありました。前職の時代とはどのように環境が変わりましたか?

お客さんの声が直接聞こえてくることが大きな変化です。何が足りないのかをひしひしと感じています。同時にこの技術を製品化していくことに責任を感じるようになりました。楽しいことだけではなく、お客さんの声に答えていかなければならないと考えています。

 

──オムロンが主催するベンチャー支援プログラムのコトチャレンジでは審査員特別賞をとるなど1年間で成果がでているように思います。

オムロンのような大きな会社に認めてもらえた、という事は非常に嬉しいことでした。そして、認めていただいた方は当社のファンになってくれて応援してくれている。大企業の中で開発を進めていたらもっとビジネスライクな付き合いになっていたと思います。現在は、大企業とも親密に情熱をもって関係をつくっています。

 

──その分、忙しくなったのではありませんか?

大変になりました。ここは自分が頑張って期待に答えていく時だと思っています。

 

──民間からの支援だけではなく公的支援を活用しながら事業を進めておられます。このことについてはいかがでしょうか。使い勝手についてもご意見をいただきたいとおもっています。

当社はNEDOの助成金(研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援“STS”)を得ていますが、これに採択されていなかったら起業はしていません。当社の事業をすすめる上で後押しになっているのは事実です。しかし、やはりお役所仕事の部分があり、提出書類も煩雑で量が多いです。助成金のための書類準備よりも開発や設計に時間を使いたいので事務手続きを簡便にしてほしいという思いもあります。

 

──起業にあたっては、家族の理解も重要かと思います。その点はいかがでしょうか。

その点は難しいこともありました。私には子供もいますし、ローンも残っており妻からは起業に反対をされました。最終的に説得した時に、2つの約束をしました。それは、1つは前職時代より給料を下げないこと、もうひとつは2年で事業の芽が出ないなら諦めること、でした。事業の芽が出るというのは定義も難しいですが、来年には助成金だけではなく出資を含めて事業を進めていかなければなりません。

 

──今年度の大きな成果としてイノベーションリーダーズサミット(ILS)では、大企業からの人気投票でトップとなりグランプリとなりました。これは484社のベンチャーのなかでのトップであり、大きな成果だと思います。

ILSのグランプリは、ありがたいことです。しかし、ビジネス的な成果はまだ出ていないと考えています。当社はまだ技術開発を行っている段階で、利益もないし、売上もありません。期待感から投票していただけたのだと思っております。来年はプレゼンのなかだけでなく、実際に使えるものにしていくことが大切だと考えています。

 

──eNFCが持つ技術は日本だけではなく世界でも需要があると思っていますが、いかがでしょうか?

当社の技術はグローバルに通じるものだと思っています。世界中の必要とされている人に届けたいと思っていますので、積極的に海外展開をしていきたいと思っています。
家族との約束でも次の1年が勝負です。中途半端なものにせず頑張っていきたいと思います。

 

──グローバル市場に通じるようなビジネスになるようにSARRでも支援をしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

 

【編集後記】

改札を通る時、いちいちicocaを取り出すのが不便、オフィスで会社に入る時にパスどこに行ったっけと探すといった経験はみんな持っていると思います。eNFCの人体通信の技術はこんな不便さを解消します。触るだけ、歩くだけで改札が開き、鍵を出さなくてもノブに手をかければドアが開く、カードを出さなくてもさわりだけで決済ができる。Apple Payでもウォッチやスマホをかざすことはもちろん不要。そんな夢のような世界が実現します。基本的な技術はもう出来ています。あとは実際の現場で使えるように開発することが急務。一早い実装が待たれます。SARRはこの実装に向けての体制づくりを応援しています。

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