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エクソ・バイオニクス

「車いすがいらない社会をつくる」

エクソ・バイオニクス

カリフォルニア大学バークレー校の研究成果をベースに創立。外骨格(エクソスケルトン)テクノロジーを牽引。そのノウハウを駆使し、同社が作りあげたのが、下半身麻痺状態の患者が起立して歩くことができるよう支援する世界初の歩行支援ロボット「Ekso GT」。

(インタビュアー:合同会社SARR 代表執行社員 松田一敬)

エクソ・バイオニクスは、2005年、カリフォルニア大学バークレー校の研究成果をベースに創立。外骨格(エクソスケルトン)テクノロジーを牽引しています。そのノウハウを駆使し、同社が作りあげたのが、下半身麻痺状態の患者が起立して歩くことができるよう支援する世界初の歩行支援ロボット「Ekso GT」です。2008年に国防総省から研究助成金を受け、12年FDA(アメリカ食品医薬品局)から脊髄損傷のリハビリに関し病院・リハビリクリニック使用に関する認可を取得。16年には、適用範囲を拡大、L5からC7までの脊椎損傷の使用に対して承認を受けるとともに、脳梗塞による片麻痺治療用外骨格として初めてFDAの承認を受けました。患者がより早くより多くの高強度ステップで動けるようにする機能を提供する「エクソスケルトン」は、すでに医療現場での活躍。これまで世界各国130の病院・リハビリ施設において190機のEkso GTが利用されており、6,000万歩を踏み出すことに役立っています(2016年10月現在)。

今回はエクソ・バイオニクスのChief Financial Officer、Max Scheder-Bieschin氏にお話を伺いました。

ekso_img1──2003年よりシリコンバレーで、パワー・アシスト・ロボットのためのリサーチを始めたと聞いています。「Ekso GT」の開発のきっかけを教えてください。

(Max氏) 研究はカズルーニー教授を中心とした2人でスタートしました(カズルーニー教授は創業株主ではありますが、現在は経営には関わっていません)。もともとは医療用ではなく、重いものを運ぶことなどを目的に、映画「エイリアン」に出てくるスケルトンのロボットのようなパワースーツを想定していました。しかし、可動部分があまりにも大きく、大変な消費電力を要してしまいます。この段階で新しいコンサルタントも入り、もっと効率的なパワースーツを作ろうということになりました。
また、研究の過程で、パワーを上げなくても足を支えてあげれば階段を降りることができ、足の筋力をちょっと付加してあげれば階段を登ることができることがわかったので、動力を5000ワットから4ワットに下げ、その上で機能を向上させることを考えるようになったんです。これならビジネスになると、UCバークレー大学からスピンアウトして、会社を作ることにしました。
また、創業メンバーでのコンサルタントの一人であるラス・アンゴールドの弟が、米海軍特殊部隊(SEALS)にいて、ミッション遂行のためにコラボしないかということになり、そこからプロトタイプの製作が始まったのです。だから最初は強い兵士をサポートするごついものでした。しかし、ある時、彼が首を痛め、下半身不随になってしまった。彼の場合、とてもレアなケースで、足と腕はどうにか動かすことができるという状況でした。自分たちの技術で彼を助けたい──、「Ekso GT」の開発に一層力が入りました。ラスは現在、研究開発部門であるエクソラボの代表をしています。

 

──「Ekso GT」は歩行困難の方をどのようにサポートできるのでしょうか。

ekso_img2(Max氏) 実際に歩行が困難な人がどのようなリハビリを行っているか確認してみたところ、まともな方法がまったく存在していないことがわかり驚きました。リハビリ器具も、ロボットや「フランケンシュタイン」のような動きになってしまうものや、複数の介護者のサポートが必要なものばかり。まともな方法はほとんどありませんでした。かなりの重労働である上に非効率、従来の歩行パターンに戻すことはとても難しく、しかも医療施設を出たら歩く機会がないという人々がほとんどです。非常にニーズが高い分野だということがわかりました。
「Ekso GT」はサポートできる範囲が広いことが特徴です。脊髄損傷ならなんでもいいというわけではありませんが、2016年4月にはFDAから脳梗塞およびL5からC7までの脊椎損傷における使用の承認を獲得。カバーできるマーケットが一気に広がりました。リハビリセンターの事例でいえば、6週間で3、4倍の効果の違いがあります。

 

──「エクソスケルトン」はどのように歩行困難のサポートを行うのでしょうか。また、他のリハビリ器具に比べ、どんな点が優れているのでしょうか。

ekso_img3(Max氏) アメリカでは多くのヘルパーやセラピスト(理学療法士)は小柄な女性です。それに比べ、人口の80%が身長5フィート60(約170センチ)以上で、体重は220ポンド(約99.79キロ)以下というデータがあります。普通に考えれば、一人で一人を支えるのはとても無理ですが、「Ekso GT」を装着していれば、患者は自立することができ、介護士はバランスを取るためだけに存在していればいい。重さを感じることが全くなくなるため介護士の負担は激減しますし、患者の回復も劇的に早くなります。
また、こちらもアメリカのデータですが、重篤な脳卒中患者は1日の95.5%寝込んでいるといわれています。立って歩く訓練をしたとしても、1回目のトレーニングで歩くことができるのは平均8歩。しかし、「Ekso GT」を使った訓練では、最初のトレーニングで立って全ての患者が歩くことができ、しかも平均411歩の歩行を実現しています。もう二度と動けないと思っていた人が立ちあがった瞬間は、本人はもちろんですが家族たちも大喜びします。私たちにとってもなんともうれしい瞬間です。
また、スマートなバリアブル・アシスト (米国外ではスマートアシスト) ソフトウェアを搭載しており、それぞれの患者のデータを蓄積し、足りないところをプッシュします。これまで動いていなかったところが動くと、この足は動くんだというコミュニケーションも始まり、リハビリが進むにつれてチャレンジの度合いが変化していくのも特徴です。また個々の患者のデータはクラウドで管理しておりこのためVodafoneと提携しています。

 

──医療施設への導入の状況、成果はいかがでしょうか。

(Max氏) 開発当初は、全米を代表するような著名なところと組み、データ収集を中心に行っていましたが、最近は小規模のリハビリセンターが積極的に購入し、導入しています。
たとえば、ペンシルベニア州のグッドシェパードリハビリ病院では、「Ekso GT」購入後、毎週35~40時間の活用例が報告され、導入1年以内に2つめを購入いただきました。結果の改善も顕著ですし、理学療法士やヘルパーの重労働も解消され、また、2年以内に投資回収を実現しています。
「エクソスケルトン」は約5分で装着が可能ですから、リハビリ施設に導入した場合、1日8人の患者のリハビリをサポートすることができます。医療保険でカバーされているのも大きな利点です。

 

──今後、一般家庭での使用は視野にあるのでしょうか。

(Max氏) 我々の技術のクオリティは、世界でもトップクラスであるという自負があります。しかし、その技術をもってしても、後ろに下がったり、ベッドにあがったり、階段に登ったりなど、複雑を極める家庭での動作を遂行する家庭用の開発は、未だ難しい状況にあります。
現在は、リハビリ施設において患者さんの筋力を取り戻すこと、平らなところで歩くということに重点を置いています。また、前述のように価格帯的にも医療施設では投資回収が可能となっていますが、個人が導入する価格にまでには下がっていません。
2012年のデータによると、アメリカでは年間5万4900人に脊髄損傷が、73万9190人が脳梗塞を起こしています。歩行障害は、転倒のリスク、QOLの低下に関連性があり、歩行困難がきっかけで新たな病気を発症するというケースは少なくありません。また寝たきり、車椅子による生活がもたらす疾患が医療コスト増につながっています。現在、アメリカでは、脳梗塞による医療コストは年間3兆円ほどかかっていると言われていて、歩けるようになる患者さんを増やすことで、そのコストを減らしていくことが我々の役割のひとつと考えています。特に脳梗塞に関してFDAの認可を取得しているのは我々だけなので、絶対の自信を持っています。今後は現在の脊髄損傷、脳梗塞から疾患領域を変形関節炎、多発性硬化症、パーキンソン病等、徐々に広げるとともに、介護施設、ひいては家庭での使用が可能となるように開発を進めていきます。

ekso_img4また、製造業などの民生用にも我々の用途はあるはずです。現場で重い機材を長時間同じ姿勢を維持する場合などに、作業者の体にかかる負担を軽減できます。特に、重い物を持ちながらの作業には強みを発揮し、そういった場合も自由自在な動作が可能です。戦場で兵士が使うことを想定し、開発を行ってきた我々の強みだと自負しています。

 

──日本という市場に期待することを教えてください。

(Max氏) これまで我々の活動はアメリカ国内やヨーロッパが中心で、日本においてはあまり活動ができていませんでした。今後はロボットに関心が高く、ロボット技術に優れた日本で、ぜひ技術パートナー、ビジネスパートナー、病院とインタラクションをはかっていきたいですね。
私たちにも優れた部分がたくさんあると自負しています。現在、130病院と提携し、FDAの承認も取得、またナスダックにも上場しています。我々の医療の分野での実績と日本の最先端の技術を合わせることで、もっと先に進めるのではないかと考えています。特に日本では高齢化が進んでいると聞いています。将来的に高齢化に伴う歩行の問題もサポートしていきたいですね。「Ekso GT」を装着して、多くの人が車いすを使わずに、まるで器具を装着していないかのように歩けるようになることが、我々の目指すところです。まずは、世界中に、「Ekso GT」を使った機能回復を世界に広めていきたいと考えています。

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エクソ・バイオニクス http://eksobionics.com/


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