RFルーカス株式会社
RFIDの制御技術を利用・発展させ、RFIDの位置特定、在庫個数確認に関して、これまでにない高い精度で特定できる製品を提供します。
RFIDの制御技術を利用・発展させ、RFIDの位置特定、在庫個数確認に関して、これまでにない高い精度で特定できる製品を提供します。
Kizkiスタートアップインタビュー
語り手:上谷一氏(RFルーカス株式会社代表取締役)
聞き手 :松田一敬(合同会社SARR代表執行社員)
松田「RFルーカス」はどんなことをしている会社なのですか。
上谷 社名の「RF」は、商品などに付けられた 電子タグを電波で読み取り、管理するシステム「RFID(Radio Frequency Identifier、無線自動認識技術)」から来ています。「ルーカス」は位置を意味する言葉(locus)から取りました。
もともと私は、前職で10年来、RFIDに取り組んできました。現在43歳です。起業にはちょうどいいタイミングかと思い、2015年8月にRFルーカスを立ちあげました。RFIDで読み取ることができる距離は年々伸びていますが、今では10メートル以上までのタグを読みとることが可能となっています。弊社では、RFIDの制御技術を利用・発展させ、RFIDの位置特定、在庫個数確認に関して、これまでにない高い精度で特定できる製品を提供します。
松田 そもそもRFIDは、どんなものに利用されているのですか。
上谷 例えば、アパレル業界でのタグ付けに広く適用されている技術で、年々利用が広がっています。「Suica(スイカ)」や「Edy(エディ)」といったものもRFIDですが、それらは中にコイルが入っていて電磁誘導を行っています。
私たちは電波を放射してタグと通信を行う電波方式を使用しています。電磁誘導では通信距離1m程度までですが、電波方式では10m以上のタグも読むことができます。RFルーカスでは、携帯電話の周波数と同様の900MHz帯(UHF帯)の電磁波を使用しています(RAIN RFID)が、これが非常によく飛ぶんです。最近、アパレルだけでなく、コンビニ各社が連携して全商品に電子タグをつけ、無人レジを実現することで人手不足に対応すると発表し話題になるなど、この分野は今後大きく成長すると思っています。
松田 その技術は、どんなところに使われているのでしょう?
上谷 アパレル初め図書館の書籍や、病院の医療器具管理等、用途は多岐にわたります。スマホのセンサと連動したレーダー画面でそれらの位置を正確に表示することができるのは、私たちの技術の応用の一つです(図1,2)。
一般的なバーコードでは1枚ずつタグを読み取らなければなりませんが、RAIN RFIDを使えば1秒に100個以上のタグを読み取るだけでなく、われわれの位置特定技術でどこにタグがあるのかまで特定できます。たとえば倉庫内の在庫をロボットやドローンが自動で走行し物品配置の3Dマップを生成するなど、さまざまなイノベーションを創出できると自負しています。まだ実験段階ですがロボットを弊社実験倉庫で走らせ、間口レベル以上の精度でのタグ位置特定に成功しています(図3)。
今後は数えるだけでなく、位置を特定する技術も重要になってくるであろうことを鑑み、社名にも「位置」という意味の言葉を入れました。まずはタグ位置特定に関する技術で、世界一になろうと、会社の公式ホームページにも「距離の変化がわかります」という動画をアップしています。
図1
松田 これまでのRFIDの技術だと、倉庫の中にいくつ在庫が残っているかは確認できても、それが倉庫のどこにあるかまでは特定できませんでした。それがRFルーカスの技術を用いることで、位置が特定できるようになるということですね。
上谷 はい、センチメートル単位で位置特定も可能です。東日本大震災の際、早急に倉庫の中の物資を探し出す必要がありました。しかし、所在位置がなかなかわからず、結局必要な復旧工事に物資が間に合わず苦労したというお話を伺いました。これも、我々の技術を用いれば、解決できます。
松田 倉庫などでは在庫管理はいまだに紙に書き、手作業で行うのが一般的です。人手不足になるのは当然かもしれませんね。
上谷 繁忙期にはモノを探し出す「宝探し」のような状況が日常茶飯事となっているそうです。また、タグ位置特定のニーズは倉庫だけでなく、店舗、工場でも高まっています。電池なしで10メートル以上の遠距離読み取りができるRAIN RFIDに位置特定技術を提供することで、たくさんのモノの位置管理を容易に行える環境を実現することが、RFルーカスの目指すところです。例えば、今までの技術では位置特定ができないため、タグが付いていても店舗の中でその製品が店頭にあるのか、バックヤードにあるのかわかりません。またバーコードでは箱を開けていちいち1枚ずつカウントする必要がありました。でもRFルーカスの技術を使えば何がどこにいくつあるのか、またいつ出入りしたかもすべてわかるようになります。もちろん、万引き防止にも使えます。
図 2
松田 ところで、これまでの上谷さんの経歴をお聞かせください。RFID制御ソフト、システム開発経験に長年かかわってきたと聞いていますが、もともとは文系なんですよね。
上谷 はい、慶応義塾大学経済学部に入学し、経済学を志したのですが、2、3年勉強して何か違うと感じるようになってしまって(笑)。1994年に、ボランティアとして参加した、インターネット関連のイベント「NetWorld+Interop Tokyo」が、最大の転機となりました。インターネットの世界にすっかりのめりこんでしまい、以来、学校には行かずサーバーの構築やプログラムの開発に明け暮れるようになります。結果、3年生を2回やりました(笑)。大学院は東北大学大学院情報科学研究科に理転し、IPネットワークやデータ分析を研究し、大学院修了後は電機メーカーに就職しました。でも、仕様どおりにプログラムを作ることに嫌気がさしてしまって(笑)。「生まれてきたからには何か新しい技術を生み出したい。世界で初めてのことをやりたい。」と、アメリカの会社の日本法人エンジニアに転職。ロードバランサ開発会社で、そこに3年半ほど在職しました。でも同じことを繰り返すことに飽きてしまい、今度はSIMカードを作っているフランスの会社に就職します。そこでは日本の携帯電話会社のSIMカードの仕様策定等をしていました。こんな小さいカードのなかにCPUが存在しているという事実は非常に興味深かったですね。その延長でRFIDの会社に転職し、アパレルメーカーさんの棚卸システムや盗難防止ゲートの開発に携わるのですが、親会社が変わり、企業文化が変わったことをきっかけに起業することにしました。
松田 起業してみていかがでしたか。
上谷 前職で技術の蓄積といろいろなお客様とのコネクションはあったので、すぐに仕事は得られると思ったのですが、そう甘くはなかったですね。起業後1年はつらい人生を過ごしました(笑)。
松田 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS)」にも2回応募して2回落ちました。やっと3回目に合格!
上谷 ある会社に出資を願い出たのですがむげに断られました(笑)。起業直後は、小さい案件を何件か手がけているだけでした。ただ、今はだいぶ光が見えてきたように思います。今でもその頃と大きく状況が変わったわけではありませんが……。
松田 STSに2回目に手をあげた際、kizkiファンドのテキサス在住のパートナーであるサンディープ・クマールがこれは面白い!と目をつけるのですが、また落ちてしまった──。サンディープはテキサスインスツルメントでマイクロコントローラビジネスを立ち上げたり、イスラエルでVCをやったりと技術に関する嗅覚が鋭い、その目に止まったわけです。
上谷 NEDOでの2回の落選は私のプレゼンテーションのつたなさが敗因だったと思います。サンディープさんには、「失敗するのは当たり前。また頑張ろう。」と言っていただき、これまでさまざまな質問をいただいてもうまく答えられていなかったことを反省しました。これをきっかけに会社の体制を見直すことにしたんです。私は話すのが下手なのでまずは弁が立つ人を探さなければならないと、大学時代の先輩にあたる、現取締役の伊藤信雄に声をかけました。メールをしたところ、たまたまベンチャーを支援する活動をしているとのことで、取締役に入ってもらうことになったんです。3回目の挑戦となったSTSでは伊藤がプレゼンを行ったのですが、いろいろな方に、「君の言っていたことがやっとわかったよ」と言われました(笑)。
2017年1月には、我々の技術に関する記事が、「RFIDジャーナル」にも掲載されました。また、松田さんに紹介していただいた物流会社様にも興味をもってもらえました。その物流会社様が新たなお客様を紹介してくれ、現在、某大手メーカーでの実証実験がスタートしたところです。
松田 RFIDの技術は以前から用いられていましたが、位置特定技術を全面に打ち出したものを製作しているのは、私の知る限り世界でもRFルーカスが初めてです。誰も作ったことのないものをかたちにするには、苦労も大きかったのでは?
上谷 開発自体はとくに大変ではなかったですね。ただ、それを理解してもらうのは別でしたが。
図3 RFルーカスの技術を使うと倉庫の自動化、3Dマップの作成ができる
図4
松田 RFIDの技術を用い、位置が特定できることは世界でもまだ知られていません。それがより認知されるようになると、また新たな道が開けてきそうですね。
上谷 RFルーカスのミッションは、「探し物がすぐに見つかる世界を作る」こと。まずはアパレル始め流通、サプライチェーンの市場で利用を広げていきたいです。タグ位置特定技術(特許申請中)やその技術を使った製品の海外への展開も視野に邁進し、サンディープさんをはじめ出資してくれた方、NEDOのみなさん、また、支え続けてくれている妻に恩返ししたいと考えています。
松田 ありがとうございました。
図5 実機に映し出される位置情報
注:
Kizkiファンド:SARR子会社である株式会社SARR TECH RANCHが運営する投資事業組合。KizkiファンドからRFルーカスへの出資を行っている。株式会社SARR TECH RANCHは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS)」における認定VCに選ばれている。
株式会社RFルーカス ウエブサイト
編集後記
ヤマト運輸等宅配業社の人手不足が深刻になっています。スマートロジスティクス、倉庫内の作業を効率化し、自動化することは急務ですが、今まで、個々の商品の位置特定、出し入れの確認を行うことができませんでした。バーコードでは1個1個リーダにかざす必要があり、これまでのRFIDでは複数の商品を一気に数えることはできても位置特定ができなかったからです。例えば、婦人服の売り場で商品にRFIDをつけても、誤差が数mもあるためその商品がどこにあるかわからなかったのです。しかしRFルーカスの技術を使えば、 倉庫における個別商品の位置特定を行い、3次元マップを作ることもできます。また今後、単に倉庫内だけではなく、生産から物流、販売までRFIDにより管理することになります。その際もRFルーカスの技術が切り札になると期待しています。 |
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