注目のスタートアップ企業

株式会社スカイシーファーマ

自閉症で悩む患者さんや家族のコミュニケーションを円滑にする薬を作る

株式会社スカイシーファーマ

北海道大学と金沢大学の研究成果をシーズにしてオキシトシンをもとにした自閉症スペクトラム障害の治療薬の研究開発を行っている。 現在、2018年の臨床試験の開始に向けて準備中。

話し手︓ ㈱スカイシーファーマ 代表取締役 小上 裕二
聞き手︓合同会社SARR 代表社員 松田 一敬
インタビュー日︓2016.12.22

スカイシーファーマは2015年3月に札幌で設立されたバイオベンチャーです。同社は、北海道大学と金沢大学の研究成果を元に、自閉症スペクトラム障害(ASD)と呼ばれる病気の治療薬を開発しています。本日は小上 裕二社長に、自閉症治療の現状やスカイシーファーマのビジネス展開、そして今後の抱負などについて聞いてみたいと思います。

―まずはスカイシーファーマという会社を設立したきっかけを教えてください。

スカイシーファーマは、北海道大学の周東教授と金沢大学の東田特任教授の2人の先生の共同研究が出発点となっています。私は元々周東先生と30年来の付き合いがあり、二人から共同研究成果のシーズを元に起業をしたい、という相談があったのでスカイシーファーマを立ち上げることとなりました。

 

―スカイシーファーマではどのようなことを行っているのですか。

スカイシーファーマでは自閉症スペクトラム障害(略称ASD)の患者さん向けの治療薬を開発しています。現在使われているASD治療薬は、そのほとんどが別の用途の薬を適用拡大という形で対症療法的に使っています。スカイシーファーマでは、全く新しい発想に基づいてASDの根本的な原因を取り除く薬を開発しています。

 

―現在では67人に1人、つまり学校の2クラスに1人の割合で自閉症の患者さんがいるという統計データもあります。抜本的な治療薬がない現在では、自閉症のお子様を抱えた家族や学校のクラス、そしてご本人も大変苦労されていると思います。また子供だけでなく、大人の自閉症患者もいらっしゃいます。このような患者さんに対して、現在はどのような治療がなされているのですか。

お薬以外にコミュニケーションを訓練して改善するリハビリ療法もありますが、長い時間もかかりますし、十分な効果も得られません。我々は治療を望まれている患者さんの一助となる薬の開発を目指しています。この薬によって患者さんの症状を改善するだけでなく、患者さんを取り巻く環境、例えば親御さんや兄弟などの社会的な問題点を改善できます。患者さんの社会進出だけでなく、周りの生活も向上させることを目指しています。

 

―社会的な問題となっている自閉症、社会とコミュニケーションが取れない子供や大人がいる、という問題がありながら、今まで抜本的な治療薬が開発されてこなかった理由は何でしょうか。

自閉症の患者さんの根本的な原因が分からなかったことが理由です。しかし、愛情ホルモンとして最近注目を集めているオキシトシンを、体の中に取り込むことで自閉症の患者さんの症状が改善されることが、分かってきました。ただ、オキシトシンは体の中ですぐ代謝・排泄され、無くなってしまうという問題があります。その問題点を改善する物質、つまりオキシトシンの誘導体と呼ばれる物質を薬として取り込んだ時に、十分長い時間効果が期待できるものを新薬として開発しています。

 

―オキシトシンは自閉症だけでなく、対人関係の改善にも効果があるという研究報告もありますね。ところで既存のオキシトシンは、どれくらい持つのですか。

国立特別支援教育総合研究所によれば体の中、血中にあるオキシトシンは3分で半減すると言われています。そのため体外から入れても、その効果はすぐなくなってしまいます。我々は24時間効果を発揮できるもの、つまり一日一回お薬を飲めばコミュニケーション能力が改善するというもの、を作ろうとしています。

 

―スカイシーファーマにとっては、薬の開発に関する周東先生の研究成果に加えて、心や脳の研究を通じた自閉症の患者さんの行動についての蓄積がある金沢大学の東田先生の研究成果が大きいと思います。東田先生は元々どのようなことをやってこられたのですか。

東田先生は元々薬理学、つまり体の中で薬がどのように作用するのか、という研究をしてこられました。特にアメリカNIH(米国国立衛生研究所)留学中になされた脳の中の神経伝達を基礎とした研究を通じて、ASD患者にとってオキシトシンが非常に有用であるということを発見され、2007年にNatureに発表されました。現在も様々なプロジェクトをされていますが、最近終了したのが、脳プロジェクトです。東京大学・金沢大学・名古屋大学・福井大学の4大学が共同で実施した大規模臨床実験に参加されていました。そのプロジェクトの中で、オキシトシンが有効な治療薬になりえるという結果を得ています。

 

―スカイシーファーマの設立時には大変な話題になって、金沢や北海道で新聞に、そしてNHKにも取り上げられました。また患者さんや患者さんのご家族からも反響があったと思いますが、いかがでしたか。

私自身もニュースの後に、患者さんや親御さんから電話を頂きました。今は、薬になることを期待して待っておられているというのが現状です。

 

―次は、ビジネス戦略のお話をお聞きしたいと思います。今はオキシトシンを用いた自閉症治療薬を開発されようとしていますが、他にはどんなことをしようと思ってらっしゃるのですか。

我々の計画では2017年に、ヒト臨床試験の前段階にあたる前臨床試験を実施する予定です。そして2018年にヒトの臨床試験へ移りたいと考えています。その間、多額の資金と期間がかかりますので、それまでの間にオキシトシンが体内分泌量を調べる診断キットを並行して開発しています。また動物モデルもスカイシーファーマが開発して販売していく予定です。これはオキシトシンと自閉症がどのような関係性があるかを調べるための動物実験用のモデルです。更にオキシトシンは人だけでなく、全ての動物で同じ物質ですので、人の薬がペットでも効果があることが期待されます。キットも含めていろいろな開発ができた場合、動物薬や動物での診断に応用することも可能です。

 

―オキシトシン治療薬の開発では、北海道大学や金沢大学以外でも面白い試みをされています。差支えない範囲でお話しいただけますか。

スカイシーファーマの設立後、様々な方々とお話しをさせていただく過程で多くの先生方との関係もできました。例えばアメリカ西海岸の有名な研究所の先生に話をしたところ、大変興味を持たれて東田先生の動物モデル以外でのトライアルについての提案を頂きました。この研究所とはそれを踏まえた共同研究を進めていきます。また、オキシトシンの誘導体は、脳以外に体の末梢でも十分に効果を期待できるという論文がでてきていますので、日本の事業会社との間で別の誘導体を臨床候補として開発していこう、という話も出ています。自閉症治療でもすごく展開が広がってきており、いろいろな可能性が期待できるようになっています。

 

―小上さんは元々大手の製薬企業におられて、その後バイオベンチャーを立ち上げてライセンスアウトを経験してから、今のスカイシーファーマを立ち上げられました。一般的にバイオベンチャーはIT系よりも大変だと思いますが、苦労されている点と、今抱えておられる課題をお聞かせください。

私は約20年間、製薬企業で創薬の仕事をしてきました。その後創薬のベンチャーを立ち上げて、実際にいろいろなことをやっていました。その経験の中で自信を得た部分もありましたし、難しい部分も実感しています。バイオ企業はリスクが高いけれども、うまくいけばすごく大きな企業になる期待ができるので、チャレンジ精神をお持ちの方にフィットすると思います。リスクはあるけれどもチャレンジしていく意思、というものが重要だと思います。

 

―いろいろなスタートアップが立ち上がっています。しかし、うまくいけば売上1,000億円を超える商品を最初から開発しようとする企業は少ないと思います。それに対する意気込みは有りますか。

金額の多寡ではなく、すごくリスクが高いけれども面白い仕事だと思っているのがベースにあります。患者さんにそれだけのメリットがある、社会貢献という意味で十分に価値がある、とみていただいた結果として1,000億円の売上になる、と考えています。

 

―話題は変わりますが、立上げの段階からNEDOの様々な支援を受けておられます。このような研究開発において国からの支援は必要不可欠だと思いますか。まだまだ使い勝手の悪いところもあると思うので、もし改善点などがあれば教えてください。

まずは国の支援について。我々のようなバイオ企業が成功するには、多くのお金と時間、そして高いリスクがあります。そういう前提を踏まえてベンチャーキャピタルに話をしてもなかなか資金調達は難しい、という状況です。そのような状況の中でNEDOが我々の研究開発を採択してくれた、ということに十分な意味があります。国がこういう支援をしないと日本のバイオ産業が発展していかないのは間違いありません。

次にもう一つのNEDOの運用に対する問題点について。バイオ企業がスタートアップして発展していこう!という時に、難しい部分はたくさんあります。例えば資金の使い方でも細かい制約が多いです。事務作業ではなく、研究に専念させてくれればという想いは有りますが、いろいろな社会環境やNEDOの立場として制約があるのは理解できます。その中でNEDOとスタートアップとの間で信頼関係ができれば、もう少し費用使途の自由度が増すのではないか、と思っています。

 

―最後に、今後に向けての抱負、そしてどんな会社にしたいかをお聞かせください。

私のポリシーはスケジュールをきちんと守ることです。ですので、我々が最初に立てたビジネスプランがスケジュール通りに実現できているかということは、常にマイルストーンベースで見つめ直しています。しかしその中で、もし何かの障害があった時に、どう対応するかというフレキシビリティも重要になります。フレキシビリティとプランをきちんと実行するという両輪を大事にしています。

 

―ということは、まずは2017年の前臨床、2018年の臨床入りというスケジュールに向けて、一直線に走って行かれるということですね。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【編集後記】

現在自閉症で悩む患者さんは67人に1人、患者さんもご家族も大変な苦労をされていますが、残念ながら抜本的な治療方法はありません。スカイシーファーマのオキシトシン誘導体の開発に成功すれば世界中で数千万人と言われている自閉症の患者さんにとっては大きな朗報になります。unmet medical needs (治療法のない病気に画期的な治療法を提供する)、これこそ、バイオベンチャーの醍醐味です。SARRはこの世界中が待望する薬を実現する支援をしていきたいと思っています。

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