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メロディー・インターナショナル株式会社

世界中の妊婦さんに安心安全な出産を

メロディー・インターナショナル株式会社

「遠隔医療で安心、安全な出産をすべてのお母さんに」をテーマに、小型の分娩監視装置を開発する会社として2015年7月に起業。

語り手:尾形優子(メロディー・インターナショナル株式会社代表取締役)

聞き手:松田一敬(合同会社SARR代表執行社員)

松田:まず、医療機器製造ベンチャー企業である「メロディ・インターナショナル」はどんな会社なのでしょう。

尾形:「遠隔医療で安心、安全な出産をすべてのお母さんに」をテーマに、小型の分娩監視装置を開発する会社として2015年7月に起業しました。

妊婦健診に必要な分娩監視装置は一般的に大型で、病院据え置き型が主体です。近くに健診のできる病院や診療所がない妊婦さんは健診に通うのが非常に大変です。東北や北海道など、地方では市町村内に産婦人科が1件もない自治体もあり、妊婦さんは大変な思いをしています。そこで、妊婦さんの通院負担を軽減できるように、分娩監視装置を小型化し、家庭に持ち込めるようにすることで、医師が妊婦さんや胎児を遠隔健診できるシステムを開発したいと考えるようになりました。

こうして開発したのが、クラウド型胎児心拍計・子宮収縮計「プチCTG」です。これは、クラウド上で胎児心拍計と電子母子健康手帳(パーソナルヘルスレコード)を連携させ、当社独自のコミュニケーションプラットフォーム「Melody i(メロディーアイ)」を通して、医師と妊婦を日常的につなぎます。胎児の心拍数や、妊婦さんのお腹の張りを計測すれば、お腹の赤ちゃんの健康状態がわかります。もし異常が見つかれば、インターネット経由で医師の判断をあおぐことができ、中核病院への紹介もスムーズとなります。

2016年11月には、総務省の ICT イノベーション創出チャレンジプログラム(I Challenge!)に採択され、5000万円近くの補助金を得たことで、医療機器の製造販売業を取得するなど、開発を加速することができました。

松田:もともと尾形さんは、医療システムのミトラ(高松市)で社長を務め、15年にメロディ・インターナショナルを起業しています。京都大学大学院の原子核物理学修士課程を専攻した尾形さんが、医療機器業界で仕事をするようになったきっかけを教えてください。

尾形:伯父が外科医だったこともあり、医療の世界には興味があり、子どもの頃は外科医になりたいと思っていた時期もありました。大学は工学部で学び、原子力を研究してノーベル賞を取りたいなと考えていたこともあります。

卒業後は香川県に縁があり、香川県内のIT関連企業に就職。そこで、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「診療所用電子カルテ」の開発・実証事業を担当したことが、医療ITに携わるきっかけとなりました。手術現場に立ち合っても全然怖くなかったですし(笑)、もともと向いていたのかもしれません。この活動が、2000年に、四国4県で取り組む経済産業省の電子カルテ事業「四国4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」に発展しました。この参画課程で周産期遠隔医療を推進する香川大学の原量宏(かずひろ)教授(当時助教授)と出会い、妊婦と産婦人科が抱えるさまざまな課題が見えてきたことで、これまで以上に医療システムに興味を持つようになります。

その流れで出産情報がデータ管理できる産科用電子カルテの開発をしたいと考えるようになり、2002年、周産期電子カルテの開発販売を行う株式会社ミトラを起業します。最初は、いろいろな病院や診療所を回りましたが、「そんなものいらない」と言われ、最初の3年間はまったく相手にされませんでした。宝くじが当たればいいのに、なんて考える毎日でした。結局、宝くじは買わなかったのですけれど(笑)。

千葉県の亀田総合病院さんが、初めて周産期電子カルテを購入してくれたのは、起業から3年目のことでした。また、2006年には産婦人科医がひとりもいなくなってしまった岩手県遠野市の助産院に遠隔診療システムを導入。助産院での妊婦健診データを、隣接する釜石市などの中核病院に飛ばすシステムを確立するなど、2,000例以上の出産をサポートしてきました。

2013年には8億5000万円を売りあげ、利益も30パーセント近く出るようになるのですが、会社は売上の立てやすい周産期電子カルテに注力し、遠隔医療や発展途上国など利益がすぐに上がらない事業からは手をひいていきます。もともと私は遠隔医療や僻地医療をやりたかったので、ミトラをスピンアウトし、メロディ・インターナショナル株式会社を起業することにしました。

 

松田:「Japan Venture Awards 2009」中小企業長官表彰も受けるなど、ミトラでさまざまな実績を残してきた尾形さんが、なぜ自ら設立した会社をスピンアウトし、メロディ・インターナショナル株式会社を立ち上げたのでしょうか。

尾形:ミトラで周産期電子カルテの開発に携わる中で、これまで以上に妊婦と産婦人科のさまざまな課題が見えてきました。ライフスタイルの変化から、周産期死亡(妊娠満22週以後の死産と早期新生児死亡の合計)率の上昇などハイリスク妊娠といわれる高齢出産(35歳以上の妊娠出産)の割合が最近では30%近くに増加する一方、出産ができる産科施設数は2006年から2015年の10年間で20%近く減少しています。ハイリスク妊娠はより細やかなケアやモニタリングが必要となりますが、産婦人科医不足は都市部でも深刻な問題となっており、さらに離島・へき地や発展途上国などではより深刻で、世界中の人々が平等に質の高い医療を享受するためには医療ITの発展が不可欠です。

そこで、遠隔医療を推し進めていきたいという思いから、2015年7月、メロディ・インターナショナル株式会社を起業。周産期遠隔医療を推進する香川大学の原教授と連携しながら、遠隔医療のための胎児モニタリングシステムの開発をスタートしました。

 

松田:原量宏教授と、メロディ・インターナショナルとの関わりはどのようなものなのでしょうか。

尾形:原教授、竹内康人教授らは病院据え置き型の胎児監視装置を世界で最初に作った人たちで、世界の産婦人科に最も貢献した日本人と言われています。私たちはこの胎児監視装置の小型化・モバイル化を試みているわけです。原教授は日本の医療のIT化を先導し、02年には「かがわ遠隔医療ネットワークK-MIX」を構築しています。

厚生労働省の統計によれば、香川県の1年間の1,000出産に対する周産期死亡の比率は、2.2人(2015年統計)で、2014、15年の2年連続で日本(つまり世界)最少でした。香川県では周産期死亡率が高く、1970年代の日本でワースト5に入っていましたが、現在の状況にまで引き揚げたのは、原教授たちの功績に他なりません。ちなみに私の出身地である京都はワースト3です。現在、メロディ・インターナショナルはその原教授や竹内教授を顧問とし、役員4名、3人の社員で開発を行っています。

 

(同社入り口前に展示されているメロディのプチCTGと一緒に)

松田:「プチCTG」について、もう少しくわしく教えてください。

尾形:胎児心拍数と陣痛を計測する据え置き型分娩監視装置を、医師のいない離島・へき地や通院・入院の困難な妊婦向けに小型化・無線化・モバイル化したものです。

妊婦さんの腹部に、心拍計とお腹の張りを測る陣痛計の2つの機器をベルトで固定し、胎児の心拍数や陣痛計から子宮収縮の状態をデータ化します。このデータがBluetooth(無線)でスマートフォンやタブレットにリアルタイムで送られ、そこからインターネットを経由して離れた場所にいる医師がスマートフォンやパソコンで確認できるシステムです。機器とシステムが連携しているという点が、私どものプラットフォームの大きな利点です。

どこにでも持ち運びできるサイズと、専用のシステムを使わなくても手元のスマートフォンやタブレット、PCからインターネット経由で閲覧可能なことが、同システムの大きな特徴です。医師はデータを見ることで、胎児の健康状態や分娩のタイミングを把握でき、通院や入院のタイミングを指導することができます。また、診察・検査データが管理されることで、妊婦さんの安全が確保できるだけでなく、次の手がいち早く打てることで、24時間対応を迫られる産婦人科医の負荷を減らすというメリットもあります。

 

(左から二ノ宮CIO、尾形社長、高木CFO。高松市の同社オフィスにて)

松田:世界的な展開も視野にあると聞いています。

尾形:世界中の妊婦さんと赤ちゃんの健康を守ることが私たちのミッションだと考えています。まずは、周産期医療の遅れがある東南アジアやアフリカなど発展途上国をはじめ、医療サービスが届かない僻地や、高齢出産などのハイリスク妊婦さんが多い都市部を中心に普及を目指します。日本発の母子健康手帳は世界30か国に普及しており、日本の周産期医療を受け入れる体制になっている国も多いため、現在はJICA(国際協力機構)らとタイアップして、タイでの遠隔健診システム導入事業を行っています。タイ北部チェンマイ県のコミュニティ病院は24ありますが、産科医が常駐している病院は1つもありません。そこでチェンマイ大学病院並びに産科医のいる4つの総合病院と、これらのコミュニティ病院を遠隔でつないでいく事業を行う予定です。すでにチェンマイ大学にサーバを設置し、チェンマイ大学病院と4つの統合病院、地域病院、ヘルスセンターを繋いだ事業では、1,500例以上の健診データを得ることが出来ました。この情報システム構築は香川県と香川大学医療情報部と共同して実施されました。発展途上国にはJICAのODAモデルなどを使い、発展させていこうと考えています。

松田:SARRともタッグを組み、総務省の助成金も得ています。今後、実用化までのスケジュールや今後の計画や目標及び展望についてお聞かせください。

尾形:日本においては、病院、診療所、助産院などに医療機器を導入し、遠隔地や在宅の妊婦にレンタルしてもらい、遠隔健診が行われる仕組みを確立したいと考えています。妊婦の方にはレンタル料やクラウドの使用料金など、出産ごとに2万円程度を病院に支払ってもらい、うち1万円を当社が得るというビジネスモデルを想定しています。

医療機器には様々な安全性試験や薬事認証のハードルがあり、現在、そのひとつひとつをクリアしていっている段階です。簡単に小型化できると思っていたのですが、1つの箱に一緒に入れたら予想外のノイズが生じてしまうとか、想像以上に開発は大変です。

「クラウド型胎児心拍計・子宮収縮計」は、病院向けと在宅向けの両面で考えていて、病院向けは設計変更、改良を行い、現在薬事申請向けの機器を完成させていくところです。国内外で実証実験を行い、2017年度内に初期モデルの薬事認証を取得し、2018年春頃ローンチの予定です。この頃には遠隔健診アプリを含むプラットフォームも構築している予定です。在宅向けに関しては電子母子健康手帳アプリを含むプラットフォームを開発し、基礎実験に入っています。あとはクオリティを保ったまま、いかにコストを下げるかが課題です。

最近は「使ってみようか」と興味を示してくださるドクターも増えてきました。きちんとしたシステム、機器を作りあげることが私どもの使命ですし、それによってドクターとともに、妊婦さんや赤ちゃんをサポートしていけたらいいなと考えています。

松田:ありがとうございました。

編集後記

筆者の3人の子供が生まれた北海道の道立病院では今は出産ができません。そのためもし、今出産しようと思うと1時間以上雪道を走って産婦人科のある大病院まで行かなくてはなりません。また次男が切迫早産の可能性があるため妻は入院を余儀なくされました。もしメロディのプチCTGがあれば切迫早産に備えての入院も、遠く離れた病院への通院も必要なくなります。また最近は高齢出産、つまりリスクのある妊娠、出産も増え、都市部の妊婦さん、特に働いている妊婦さんが不安を抱えています。もしお腹が痛い時、仕事を休んで産科に行ったほうがいいのか、大丈夫なのかわかったら安心です。こんな女性に安心を与えるのがメロディのモバイル胎児モニター。世界中の妊婦さんが安心して妊娠、出産できるようになってほしいです。

 

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